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360度カメラ THETA Z1をCG制作に活用!「今際の国のアリス」制作秘話

Posted date : 2021.01.14

昨年末にNetflixで配信開始になった、全世界的に大ヒット中のNetflixオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」

その見どころの一つである、冒頭の渋谷スクランブル交差点のシーンでは、主人公のアリスたちが人で溢れるスクランブル交差点から駅に逃げ込み、直後に人が消え無人と化した渋谷を目にするまでが、ワンカットで表現されていることも、大きな話題になっています。

Netflixオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」Netflixにて全世界独占配信中
© 麻生羽呂・小学館/ROBOT

実はこの渋谷スクランブル交差点での撮影シーンは、出演者と改札・公衆トイレ等、セットの一部を除いて、背景はほぼすべてCGで作り込まれているのです。

© 麻生羽呂・小学館/ROBOT

この、現実風景と一見区別がつかないほどのリアルなCG空間を制作するためのCGライティングに、THETA Z1で撮影した「HDRI」と呼ばれる光源情報が使用されています。

今回は、「今際の国のアリス」のVFXスーパーバイザー土井淳さんに、その制作秘話と、具体的にどのようにTHETA Z1を活用されたのか、お話を伺いました!

「今際の国のアリス」とCG制作

「今際の国のアリス」は、主人公アリスたちが生き抜くためのゲームを次々とクリアしていくというテンポの良いストーリーだけでなく、冒頭での一瞬にして無人と化した渋谷スクランブル交差点でのシーンに引き込まれました。このシーンはどのように撮影されたのでしょうか?

実際は足利市にある大規模屋外オープンセットで撮影されています。出演者と改札・トイレなど一部のセットを除いて、背景はほぼすべてCG合成です。

このシーンの背景がほぼCGとは、驚きです!

「人混みの渋谷から、主人公たちがトイレに逃げ込み、直後に出てきたら渋谷から人が消えている」。 このシーンはワンカットで撮影されていますが、これは実写であれば不可能なシーンです。

今回のCG制作において、難しかった点はどこでしょうか?

今まで携わってきたCG作品では、架空の街や架空の生き物を題材にした作品が多かったのですが、「今際の国のアリス」では第一話の冒頭で、誰もが知っている渋谷スクランブル交差点をCG化する、ということが最も難しい点でした。

しかも、人が大勢いるシーンもあれば、いないシーンもある。人がいなくなるということは、情報量が減るため、CGと実写の接地面に目が行きやすくなるのです。そのため、いかにリアリティを細かく追及するか、ということが課題でした。

今回のCG制作において、THETA Z1はどのように活用されたのでしょうか?

THETA Z1で撮影した画像データを、「HDRI」と呼ばれる光源情報として、CGライティングに使用しています。

【THETA Z1で撮影したRAWデータを編集した画像】

HDRIによる実際の光源情報をCGライティングに使用することで、実写部分と馴染みが出る、よりリアルなCGを作り上げることができるのです。

Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA

【THETA Z1で撮影したJPEGによる参考画像】

*HDRI:高輝度の光があふれる様子から、暗部の細かな陰影まで、現実世界に近いレンジの明るさを表現できる画像フォーマット。RGB各32bitの浮動小数値で明るさを表現するため、従来の8bit整数値よりも格段にレンジ幅が広い。CGライティングの色情報に使うと、実写と合成しても違和感の少ないCGを制作できる。

HDRIとは、実際にどのように撮影して生成されるプロセスなのでしょうか?

シャッタースピードを変えてマルチブラケットで撮影したTHETA Z1のRAWデータを、RAW therapeeやPTGUIといった画像ソフトで一枚に組み合わせ、32bit化しています。

32bit化することで、より広いレンジの色情報を取得することができ、より実写に近い光源情報を取得することができるのです。

【THETA Z1で撮影したマルチブラケットデータ】

撮影した足利のオープンセットで、午前・午後・夕方の時間帯に、それぞれTHETA Z1でマルチブラケット撮影しました。THETA Z1で撮影した画像データの光源情報を、シーンに合わせて、実際の渋谷スクランブル交差点シーンのCGライティングに活用しています。

渋谷スクランブル交差点シーンの他では、どこでTHETA Z1を活用されたのでしょうか?

第4話で登場する、トンネルの中で主人公たちがクロヒョウに追いかけられるシーンでも、THETA Z1で撮影したHDRIデータが活用されています。

【THETA Z1で撮影したRAWデータを編集した画像】

トンネルでクロヒョウに追いかけられるシーンも、とても迫力がありました!クロヒョウはCGで合成されているのですね。

トンネルのシーンでは、CGのクロヒョウが車の上や周りを大きく動き回ります。

そのため、実際に撮影したロケ地のトンネルの中で、クロヒョウが動く車の上や、車のドアの前の位置などに合わせて、THETA Z1を使ってマルチブラケット撮影しました。

Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA

【THETA Z1で撮影したJPEGによる参考画像】

そこで撮影したHDRIによる光源情報を、クロヒョウのCGライティングに活用しています。

【THETA Z1で撮影したHDRIでライティングしたクロヒョウ】

© 麻生羽呂・小学館/ROBOT

THETAについて

土井さんはTHETAを2013年発売の初号機からお使いとのことですが、何がきっかけでTHETAを使い始めたのでしょうか?

コンパクトで、360度が簡単に撮れるカメラということで、最初は「ロケハンで使えるかな?」と思い、興味本位でTHETAの初号機を購入し、「もしかして、これはCGのためのHDRI撮影でも使えるかな」と思い始め、シャッタスピードを変えて撮影しながらテストをしていました。

その後発売になったTHETA Sでは、シャッタスピードの設定幅も広がったため購入し、本格的にCGの仕事でもTHETAをHDRI用として使用するようになりました。映画「デスノート」のCGの一部でも、THETA Sで撮影したHDRIの光源情報を使用しています。

THETA Sと通常の一眼レフとは、どのようにHDRI撮影の使い分けをされていたのでしょうか?

THETA SはRAW撮影ができず、リアルなCGには不向きでした。そのため、リアルなCGを作る場合は一眼レフを使ってHDRIを撮影し、そこまでリアルさを追求しないカットではTHETA Sを、というような使い分けをしていました。

THETAが一眼レフと比べて、HDRI撮影において便利な点はどこでしょうか?

一眼レフでは、周囲4方向と上下含めた6方向でそれぞれマルチブラケット撮影し、その6方向の画像データを360度に繋ぎ合わせて、HDRIを生成する必要があります。

THETAは一発で全方向撮影でき、360度に繋ぎ合わせるためのスティッチも必要ないため、作業時間が大きく短縮できます。手軽にHDRIを撮影したいときには、THETA Sがとても便利でした。

今回の「今際の国のアリス」で、フラッグシップモデルのTHETA Z1を使って初めてHDRIで活用されたとのことですが、THETA Z1になって感じた変化はありますか?

THETA Z1はRAWで撮影することができ、絞り値も3段階に変更できるようになったため、THETA Sと比べて画質が格段に上がり、使いやすくなりました。

今回THETA Z1で撮影したHDRIを、一眼レフで撮影したものとも比較してみましたが、そこまで差が無いと感じています。

車など、細かい描写のCGをリアルに生成する場合は一眼レフで撮影したHDRIを使ったほうが良いかもしれませんが、通常のシーンであればZ1でも事足りると感じました。

CG業界で、THETAをHDRI撮影として活用されている方は多いのでしょうか?

RAW対応になったTHETA Z1が発売されたことで、以前よりは増えてきたのではと思いますが、まだまだ従来の一眼レフを使用したHDRI撮影をされている方が、大半ではないかと思います。

一眼レフでHDRIを撮影した場合、解像度が高くなる半面、360度に繋ぎ合わせるためのスティッチ作業に手間がかかります。THETAを使うメリットは、撮影時の時間短縮だけでなく、撮影した後に繋ぎ合わせる作業がかなり効率化できることだと考えています。

最近は個人でもCG制作される方が増えてきています。THETAのように簡単にHDRI撮影できるデバイスがあると、よりリアルなCGを簡単に作れるようなる方も、増えてくるのではないでしょうか。

今後について

土井さんが今後チャレンジしたいことは何でしょうか?

今のクオリティのCGをもっと簡単に作れるようになりたいですね。海外の映像作品を見ると、CGの物量が日本の作品と全然違うな、と驚くことが多いです。海外では、キャスト以外の背景はすべてCG合成、というような作品も増えている印象です。

今際の国のアリスは、シーズン2の制作も発表になりましたね。

シーズン2は、CGを駆使しないと表現できないような領域がさらに増えてきそうです。そういう意味で、「今際の国のアリス」のシーズン2は、自分にとって次の大きなチャレンジです。

ありがとうございました!次の作品でもTHETAZ1をご活用頂けるのを、期待しています!

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土井淳さんプロフィール:

株式会社 デジタル・フロンティア ディレクター、VFX スーパーバイザー

映画「アイアムアヒーロー」や「デスノート」をはじめとした、数多くVFXを手掛ける。 映画「いぬやしき」で第51回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭 最優秀特殊効果賞を受賞。

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Netflixオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」Netflixにて全世界独占配信中
© 麻生羽呂・小学館/ROBOT

ストーリー:優秀な弟と比較され続け、人生に意味を見出せず鬱々とした日々を送るアリス。唯一の心のよりどころである親友のチョータとカルベと渋谷に繰り出すと突然、街は無人と化す。不安を感じつつつも、誰もいない解放感にはしゃぐ3人。しかしそこは、様々な“げぇむ”をクリアしなければ生き残ることができない“今際の国”だった…。持ち前の観察力と判断力を発揮していくアリスは、仲間を作らずたった一人で““げぇむ””に挑み続けるクライマーのウサギと出会う。命を懸けるというかつてない体験を通し彼らは、「生きること」に正面から向き合うこととなる。

原作:麻生羽呂「今際の国のアリス」(小学館「少年サンデーコミックス」刊)

監督:佐藤信介

出演:山﨑賢人  土屋太鳳 村上虹郎  森永悠希  町田啓太  

 Netflix作品ページ:今際の国のアリス

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インタビュー: 平川 、野村

撮影: 大原

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