360度カメラRICOH THETAは日常や旅行の記録はもちろんのこと、360度映像の記録性を活かし、業務上の記録・共有目的など様々なシーンで活用されている裾野の広いカメラだ。
今回はRICOH THETAを「芸術表現」の場で活用されている書家 上田普 (Hiroshi Ueta)様にお話を伺った。

道を外れて歩む表現者 ”書家” Hiroshi Ueta

―Ueta様の活動は書道の垣根を超え多岐に渡っているように感じます。ご自身の活動をどのように捉えていらっしゃいますか?

私は書道の「道」からは外れたので者ですので、自分の作品も「書」の作品と言いますし、自分の事も「書家」と言う様にしています。書を深く理解し、追及しようとしているのに違いはありませんが、固定概念にとらわれる事のない様に、新しい技術にも取り組みますし、そこから生まれる新しい書の表現も追及しようとしています

現在では、企業や法人のクリエイティブや広告のデザインと自身の制作活動を並行しておりますが、いずれも広義では自分の作家活動と考えています。これまでの仕事としては男前豆腐店、叶匠寿庵、柊家旅館、前田珈琲、NMB48等の商品ロゴの制作やパフォーマンスの監修等をしました。

―書のバックグラウンドはどこにあるのでしょうか?

母親が書道塾の先生だった影響で、5歳位から書道を始めました。しかし大学の頃から、文字を読める人にしか伝えられない書道の領域に不自由を感じていました。本来の芸術は文字が読める、読めないは関係なく、見て伝わるボーダレスな物。書道はどうすれば芸術としての位置づけを増すことができるのだろう?との疑問が自分の中にあったのです。

その後、書道のルーツを知るために中国に留学しました。石窟や石碑など、書の歴史を巡る旅をし、昔から知っているアイドルに会いに行く様な感銘は受けましたが、新しい書の表現につながるヒントをその時の私には見つける事ができず、もっと広義に捉え、束縛の無い所芸術として表現したいとの思いが強くなり、中国を離れカナダに行き自由な視点で新しい表現にトライしはじめました。

書は空間表現である。

―Ueta様の書は文字ではなくまるで絵画のようですね。

よく言われますが実は私は書はかけますが絵はかけません(笑)。

書のルーツは甲骨文字や刻石にあり、刀の様な刃物で文字を刻んでいました。そしてその名残は今も筆法という筆を沈めて上下運動しながら書く所に残っていると考えています。それは描くというよりも、刻み込む行為に近いと思っています。これは書ならではの動作と感覚だと思います。私はこの3次元的な動きを目に見える形で空間に表現できないかと考えておりました。

その思いを表現するきっかけになったのが、VR(Virtual Reality)です。
京都に住んでいる外国人の友人から教えてもらい、実際にVR空間で書をかくことをやってみました。すると自分の書を上下左右から3次元的に見ることができ非常に新鮮な体験となりました。たとえば書において次の画に移行するときに「点画と点画の間は空中でも繋がっている」と説明していたことが3次元で表現できることを知りました。

その後、とある企業から「イベントで未来に向けたパフォーマンスをして欲しい。」という依頼がきたことをきっかけに、自分がVR空間に書をかく所作をパフォーマンスとして表現することにトライしはじめました。

VRを空間表現として使う試み

―VRでの書のパフォーマンスとは一体どのようなものでしょうか?

ゴーグルを使って自分がVR空間の中に入って制作表現します。そこでTHETAで撮影した360度画像を使用しています。
THETAで撮影した360度画像をPC上のVR空間に球体として展開し、その中に自分が入ってパフォーマンスします。お客さんからは私が見ている360度のVRの空間そのものは見えませんが、見ている映像と生まれていく書がプロジェクターで2次元に映し出されます。そのため、お客さんからどう見ているのか想定して、パフォーマンスの練習をしています。


※VRパフォーマンスの参考映像

360度カメラRICOH THETAとの出会いと活用

―VRパフォーマンスの素材としてTHETAを活用頂いているとのことですが、THETAとの出会いは?

京都のVRを教えてくれた外国人の友達がTHETAの初号機を持ってました。彼らは最先端のものを知って試すのが素早く、自分たちのライブイベントをしているときにTHETAをバンドの真ん中に置いて撮影していました。それがTHETAを知ったきっかけです。動画の性能がUpしたモデルTHETA Vを購入して使用しています。

―THETAと360度画像の活用についてもう少し詳しく教えてください。

まずはVRの素材としての活用があります。素材写真は基本自分でTHETAを使って撮影しています。昨年、私が講師をしている四国大学書道文化学科に徳島市から毎年開催している企業展示商談会「徳島ビジネスチャレンジメッセ」がオンライン開催となり、イベントのオープニングをVR書道パフォーマンスで飾って頂けないかとなりました。その時にTHETAで撮影した徳島の吉野川や駅の景色をVRを使って表現しました。WEBやオンラインサービスでは、クリエイターが新しい表現にチャレンジし、また見る人たちも分かりやすいVRや360度画像の環境整備が進んでおります。例えばリコーの360度画像共有サイトtheta360.comは、360度画像をビュワーで表現できることが可能です。私はTHETAで撮影する時、人間の目線に近くなるように自分の目線の高さにTHETAを設置し、スマホから遠隔で撮影することが多いです。

次に個展会場の記録やロケハン用途です。会場のサイズ感や位置関係の把握のためのロケハン用途では非常に便利です。
特にアーティストの方々には最もおすすめしたいTHETAの活用方法です。
過去に茶室という特殊な空間で展示会があった際に、作品を引っ掛けるフックがどこにあるか、どういった素材で構成されているかなど、床の間の中や部屋の雰囲気をTHETAで撮影し、同じプロジェクトに携わる人と画像を共有してコミュニケーションでき非常に便利でした。

個展をギャラリーで展示する際は、ギャラリー空間を自分の色に変えていきます。しかしせっかく作り上げた空間もスマホやカメラの広角レンズで撮影しても、その場の持つ雰囲気や空気感は伝わりません。THETAで360度撮影すると全体の光の感じや作品と場所の調和、空気感や雰囲気を余すことなく伝えることが可能です。友人のアーティストの個展に訪れた際は、その人の記録として撮ってあげてシェアすることもありますね。

また、THETAで会期中の様子をタイムラプスで撮っておくと、当日に気が付いてなかったことに後で気が付くこともあります。会期中は忙しいため見落としている物事が多くあります。例えば、あの二人が会話していたんだ、この作品を見ていてくれたのか、などの出来事や、光のあたり方で作品や会場の表情が変わるなど、時間や場所の変化に気がつくことができます。THETAであれば作品以外の場の情景や自分の背後で起こっている現象を記録することが可能です。

上記の記録や作品写真は、ポートフォリオサイトやWEBページでの360度で埋め込み利用することができます。

表現の領域を拡張する

―今後の展望について教えてください。

最近は「音」に注目しています。今後は筆と紙がこすれる音をダンサーに伝達しそのリズムで踊ってもらうなど、より形や見えるものだけにとらわれない表現を考えています。ダンスと書のパフォーマンスの練習風景の真ん中にTHETAを置いて、動画で撮って後で振り返るような使い方も試しています。自分は書くことに集中することが必要ですが、ダンサーがどういう動きをしているか客観的に見ることで新しい発見があります。

今後、日本はもちろん、パリやベルギーなど、海外でのイベントも予定しているので、THETA使って見せるようなこともしてみたいと考えています。今までは展示会の会期中は自分の作品はWEBやSNSに積極的に公開しないようにしていたのですが、世の中の変化があり展示会に来てもらうことが難しくなりました。現在では会期中に積極的に会場の空気感や作品をSNSで発信するようにしています。作品や場の空気感が伝わった方が来場してくれるので、より濃密な空間が生まれ始めています。

―ぜひ海外でのイベントの様子を360度見せていただければ嬉しいです。今日はありがとうございました。

書家 上田普 (Hiroshi Ueta)

Ueta Hiroshi Contemporary Calligraphy: http://www.uetahiroshi.com/Exhibition.html

Instagram: https://www.instagram.com/hiroshi_ueta/

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